【黒ウィズ】【SS】白銀に胸焦がす ピノ・マリアンヌのバックストーリー

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【SS】白銀に胸焦がす ピノ・マリアンヌ

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妖精界の雪深い森の中―― この村の冬は毎年静かに過ぎていく。 全ての音は降り積もった雪に吸い込まれ、住む者たちも家の中に閉じこもる。 そんな静寂の中、雪ウサギのように飛び回る少女がいた。 「あの人が、今年も会いに来てくれる!」 高鳴る鼓動を抑えることができないピノは、お得意の雪だるまを作って気持ちを抑えつけていた。 「こんなことしかできないけど……これが今私にできる唯一のことだから……」 彼女からあの人への精いっぱいのおもてなしだった。

彼女の待ち人――『あの人』は、【雪の降る時にだけ】、ピノに会いに来てくれた。 おととしの聖夜は暖冬だったため雪は降らず、ついにあの人には会えなかった。 しかし今年の冬は、寒さが厳しく、幸運にも雪に恵まれている。 「夏に会えたけど、やっぱり聖夜に会いたい!」 片時もじっとしていられない彼女は、胸焦がす想いを冷ますため、誰も踏みしめていない雪へ身を預けた。

舞い上がる粉雪に映る自分の顔さえもあの人に見えてしまう。 「私のためにあの人は遠い所から来てくれる!」 彼女の心はキュンキュンと締め付けられる。 「どうしてこんなに苦しいんだろう?」 もう少しであの人に会える。 「待った? ……んんん、全然待ってない。今来たことろ」 独り芝居を演じるピノは、そんな自分が照れくさくなり、雪の中に顔をうずめてしまう。 こんな姿を知り合いに見られたら何て言われるかな? でもなんて思われたっていいもん。だって今日はあの人に会えるんだから♪

日が暮れだした……が、待ち人は現れない。 かじかむ手に息を吹きかけながらピノは呟いた。 「どうしたんだろう? なにかあったのかな?」 心配しつつ、ふと空を見上げたピノは、あることに気付き愕然となる。 いつの間にか、雪が止んでいる! 「え!? うそ!? ……これじゃ……あの人に、会えない!」 彼女は祈った。ただひたすらに祈った。 「雪よ! お願い! 降って!」 雪はいっこうに振る気配はない。 「神様……もうこうなったら悪魔でもなんでもいいから……お願い、雪を降らせて! その代り、なんでもするから!」 すると彼女の言葉に応えるかのように、空からは白い雪がひらひらと舞い降りてきたではないか。 「わあ! 私の願いを聞いてくれたのね? 本当にありがとう!」 そして雪と共に、彼女の前に、あの人は現れた。 ピノは胸の中に飛び込んで行く。 「会いたかった!」 目の前に、あの人がいる。 彼女の胸の高鳴りは、静かな聖夜に降る雪までも揺らしていた。